この住宅は、緩やかな斜面を造成してつくられたひな壇状の敷地に建つ。周囲は低い山々が櫛状に連続するような地形で、その間の平地は近年宅地化が進んでいる。敷地の南側は擁壁越しに裏山が連続し、北側はひな壇下から緩やかな斜面となって眺望がよい。また木々を伐採して造成した隣地からは、鎌倉時代の武家屋敷の遺構が発掘され、この場所が昔から自然と人間の領域の接点であることを示している。特徴的なことは、敷地のひな壇上から周囲を見渡すと、目線では普通の住宅地が広がるが、視線を少し上に向けると、山々の豊かな緑が目に入ることだった。仮に周囲の宅地を視線から避けて、自然の景色だけを取り込めれば、住宅地の中でありながら、森の中で生活するような暮らしが可能になると考えた。そこで主な生活空間を2階に集め、建物の周囲を目線まで壁で覆い、その上はすべて開口部とした。また壁には小さな扉を設けて外の様子を窺うこともできる。全面開口部の外周部の一部には耐力壁が必要となるが、内部には鏡を外部には熱反射硝子を張り、風景を映り込ませることで構造体の存在を意識させないようにしている。平面は擁壁のかたちに沿った正方形をふたつ組み合わせた形状をしており、山との連続性を強めるために南側の裏山部分は全面開口とし、その先には水盤を設けて、森の緑以外にもうひとつの自然の要素を加えている。また屋根は、平面に対して裏山と視界が開けている北側に軸を45度振って掛けており、眺望のよい北側に天井が高くなる片流れとしている。水盤の下は全面トップライトで、1階部分のユーティリティや子供部屋から見上げると、水盤の揺らぐ光の向こう側に、森の緑を垣間見ることができる。1階は2階とは逆の構成で床面から70cmまで周囲にスリット状の開口として、隣地との視線の交錯を防いでいる。外部から建物を見ると、擁壁を基壇と見立てた薄白く塗装された木の箱がふたつ地面から僅かに浮いており、その上に軸を45度振った勾配屋根が浮かぶように掛かっている。この建築は、敷地を規定する人工的な要素であるひな壇の擁壁と、豊かな森の風景を、生活空間によって繋げた住宅だと考えている。
設計監理:三幣順一/A.L.X.
構造設計:久米弘記(久米弘記建築構造研究所)
施工 :YAZAWARAMBER+空組 住環工房
所在地 :神奈川県鎌倉市
用途 :独立住宅
構造規模:木造2階
述床面積:91.14m2
竣工年 :2012年
写真撮影:鳥村鋼一
掲載誌 :「新建築住宅特集」2014年3月号 / 「住まいの設計」2015年1-2月号
Architects: SAMPEI, Junichi /A.L.X.
Structral engineers: KUME, Hiroki
Photographer: TORIMURA, Kouichi
Location: Kanagawa, Japan
Structure: Wooden construction ; 2stories
Total floor area: 91.14m2
Completion date: Apr. 2012
Publishing magazine: SHINKENCHIKU JUTAKU TOKUSHU Mar. 2014 / Sumai Jan/Feb 2015 No.656