Kobayashi House
小林邸
このアトリエ付き住宅は、漁港に近い漁師町に建つ。プログラムとしては、夫妻それぞれのアトリエが求められ、特に画家であるご主人のアトリエは、平面が6×9mで天井高4mのヴォリュームが必要であった。彼らの制作方法は、複数の大判の作品を実際の展覧会のように十分な引きを取って確認しながら、いわば作家が最初の鑑賞者となるスタイルである。周囲の環境は、車も入れないくらいの細い路地が続き、それが庭なのか通路なのかも曖昧となっている。このスケール感に馴染ませるために、アトリエの大きなヴォリュームを中心として住居部分を周囲に配す構成とした。また隣家との距離も周りの路地と同じような感じになるよう建物を配置して、どこから見てもすべてがファサードのような裏表のない建物とした。アトリエと住居部分は内部では繋がず、建物の外構を歩いて互いを行き来する構成で、周囲の漁師町の路地を歩くような空間体験となっている。アトリエと住居の接続部分の壁には、トップライトを設けて自然光を採り入れ、互いの存在を暗示している。1枚の壁の表と裏で、アトリエでは作品を制作し、住居部分では作品を飾るというアートに両者が結び付くような関係となっている。これは作品づくりに集中するために、できるだけ周囲の喧騒から離れた静かな暮らしを目指した結果でもある。現代社会において作家の住まいが、後に記念館などとして使われることはよくある。考えてみれば美術館には、さまざまなサイズのギャラリー、カフェ、ミュージアムショップ、倉庫などがあるが、小さな美術館であれば、やや大きな住宅の諸室を転用することも可能だろう。そこで最初から作家の個人美術館を一定期間住まいとして転用する住宅もあり得ると考えた。現在、住まいの各所には、夫妻の作品やコレクションが日常品と一緒に並んでいる。奥様はインスタレーションなどを行う作家であるので、それが展示されている作品のようにも見える。完成時のホワイトキューブが生活によって豊かな表情をもつようになり、生活がアートと溶け込むような暮らしが実現している。
設計監理:三幣順一/A.L.X.
構造設計:久米弘記(久米弘記建築構造研究所)
施工 :YAZAWARAMBER+空組 住環工房
所在地 :神奈川県逗子市
用途 :アトリエ付住宅
構造規模:木造2階
述床面積:202.31m2
竣工年 :2012年
写真撮影:鳥村鋼一
掲載誌 :「新建築住宅特集」2015年3月号
Architects: SAMPEI, Junichi /A.L.X.
Structral engineers: KUME, Hiroki
Photographer: TORIMURA, Kouichi
Location: Kanagawa, Japan
Structure: Wooden construction ; 2stories
Total floor area: 202.31m2
Completion date: Jun. 2012
Publishing magazine: SHINKENCHIKU JUTAKU TOKUSHU Mar. 2015